バッテリー電極スラリーのゼータ電位および分布の評価
2023-06-25Application Note
本アプリケーションノートでは、NMP溶媒中に分散されたバッテリー電極スラリーのゼータ電位を測定・解析した事例をご紹介します。BeNanoシリーズを用いて4種類のスラリー試料を測定した結果、すべての試料がマイナスのゼータ電位を示し、約±50 mV前後の高い安定性を確認しました。 この研究により、電極材料の分散安定性を評価する上でゼータ電位が極めて重要な指標であることが再認識され、電池製造プロセスの最適化に向けたヒントが得られました。
使用装置 | BeNanoシリーズ |
産業分野 | 電池とエネルギー |
対象試料 | NMP中に分散したバッテリー電極スラリー(4種) |
測定項目 | ゼータ電位 |
測定原理 | 電気泳動光散乱(ELS) |
はじめに
近年、新エネルギー産業の急速な発展に伴い、リチウムイオン電池は多様な産業用途で再利用可能かつ充電可能な電池として重要な役割を担っています。リチウム電池の製造工程においては、電極スラリーの調製にNMP(N-メチルピロリドン)が分散媒として使用されます。NMPは、バインダーであるPVDFの溶媒として機能するだけでなく、スラリーの均一な分散を助け、塗布工程ではスラリーの主搬送媒体として活躍します。乾燥工程ではNMPが揮発することでコーティングに微細な空隙が形成され、多孔質かつ均一な微電極構造が得られます。NMP中での電極材料の分散安定性は、最終製品の品質に直結する重要な要素です。本研究では、NMP中に分散した複数のスラリーに対するゼータ電位の評価を行いました。
使用装置
測定には、Bettersize社製 BeNano 90 Zeta(ナノ粒子サイズ・ゼータ電位測定装置)を使用しました。
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光源:671 nm、50 mW 半導体レーザー
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検出器:APD
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測定角度:12°
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測定技術:PALS(位相解析光散乱法)により、低電気泳動移動度の試料にも対応可能
実験方法
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4種類の電極材料をNMP中に分散
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有機溶媒であるNMPの誘電率が低いため、ディップセルを使用
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各試料は6回測定し、平均値と標準偏差を算出
結果と考察
サンプル |
ゼータ電位 (mV) |
標準偏差 (mV) |
1# |
-53.43 |
3.48 |
2# |
-51.84 |
1.97 |
3# |
-50.32 |
2.46 |
4# |
-48.53 |
3.44 |
図1〜8のフェーズプロットおよび分布曲線、表1のデータにより、すべてのサンプルが負のゼータ電位を示すことが確認されました。これは、電極材料がNMP中で負に帯電していることを示しています。各サンプルのゼータ電位はおよそ±50 mV程度であり、この値は高い分散安定性を意味します。さらに、繰り返し測定による標準偏差が小さく、優れた再現性が確認されました。
結論
本アプリケーションノートでは、NMP溶媒中に分散した電極スラリーのゼータ電位測定を通じて、電極材料の安定性評価を行いました。BeNano 90 Zetaを用いた測定により、全ての試料において安定した負のゼータ電位が確認され、電極製造プロセスにおける分散状態の最適化に役立つ有益な知見が得られました。
執筆者
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Zhibin Guo アプリケーションマネージャー @ Bettersize Instruments |
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Dr. Ning チーフプロダクトオフィサー @ Bettersize Instruments |
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